東京地方裁判所 昭和29年(ワ)5991号 判決
原告等はその主張する金員授受の関係は、消費貸借ないし消費寄託にあたると主張するのに対し、被告は金融業を営むための匿名組合契約による出資金として受け入れたものであるとしてこれを争うので、先ずこの点について考えてみるのに、一体、匿名組合が成立するためには営業者の商人としての営業のために匿名組合員が出資をなすことが要件であり、営業者につき商人の観念を認めるためには、営業者において自己の名を以ていわゆる基本的商行為をなすことを要するものと解すべきところ、被告は単に金融業を営むものと主張するに止まるので、果して、商法第五百一条、第五百二条の規定する何れの商行為を主張するものであるかその趣旨を捕捉し難いが、被告本人尋問の結果によれば、少なくとも被告は東洋拓殖経済会の名称を以て、転売による利益の獲得を目的として、不動産の売買業務を営んでいたことが窺えるので、その限りにおいて被告は、商法第五百一条第一号の商行為を営む商人であつたとの認定の下に考察を進める。
而して証拠を綜合すると、被告の業態原告等の被告に対する金員交付の事情等について次のような事実を認めることができる。すなわち、被告は東洋拓殖経済会の名義を以て営業していたものであるが、関東総局を東京に、関西総局を神戸市に置くほか、全国のかなりの主要都市に支局、支店、出張所、代理店等の名称を有する下部機関を設け、不特定多数人から出資金名義の下に金員を受け入れ、右受入と同時に、その受入金額、受入年月日、満期日(出資金返還時期)を記載した出資証書及び受入金額、投資機関、配当金の率、受入の日から起算して契約締結応当日の前日の出資金を支払う旨を記載した出資契約書なる書面を金員提供者に交付していたこと、配当金の率は投資期間の長短によつて異なり、三カ月は月三分五厘、六カ月は月四分、一年は月四分五厘の定めであつたこと、従つて原告等が被告に金員を交付したのは、何れも高利の利殖を図るためであつて、中には既に他の銀行に預けた金まで引き出して被告に交付した者もあつたくらいで、被告の事業に参加しようなどという意図は毛頭なく、被告側においても、単に利殖の最上の方法として金員の提供方を勧誘しただけで、金員提供者に事業参加ないし監視の機会を与えるというような宣伝はしていないこと。而も営業案内書において、契約期間内すなわち、出資金返還の約定期日以前においても、不時の必要を生じたときはいつでも払戻をする旨謳つていること、以上の事実を認めることができる。そこで右認定事実に基いて当事者間の契約の種類、性質につき考えて見ると、もともと匿名組合とは、当事者の一方が相手方の営業のために出資をなし、相手方がその営業から生ずる利益の分配を約することによつて効力を生ずる契約であるから、営業者が利益の分配につき当該営業による損益を度外視して、一定時期に一定率の利益分配をすることを約するなどということは、一般的にいつて極めて変則的な場合である。又匿名組合の以上のような本質からして、匿名組合員としては、他の、例えば銀行預金者などと異り、営業者の営業自体にかなりの関心を有するのが通常であり、その結果、何らかの形において営業者の営業に対し、監視権その他の関与権を保有することが、その一つの特徴である。かような点に鑑みると、前記認定事実の下においては、当事者間の金員授受関係を匿名組合と見ることは到底不可能である。結局本件契約は、不特定多数者である原告等が被告に金員の運用を託してこれを交付し、被告がその委託に応じて一定の時期に右金額の金員の返還並びに一定時期における一定利率の金員の支払をすることを約して右金員を受け入れたことが認められる以上、交付金員を元本、満期又は契約日から起算した投資期間の満了日を弁済期日、配当金を利息、その率を利率とした消費寄託であると認定するのが相当である。
以上の次第であるから、原告等の主張する金員並びにこれに対する完済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は全部正当であるとしてこれを認容した。